「共用のスロープから始まるユニバーサルデザイン」
                                 山崎 泰広 氏
      (佐賀ユニバーサルデザイン推進会議アドバイザー、㈱アクセスインターナショナル代表取締役)

                                     
 ユニバーサルデザインの講演でいつも話す体験談がある。それは15年前に賃貸マンションに引っ越した時の話だ。
 私は車いすを必要としている。当時、バリアフリーのマンションはなく、なんとか簡易リフォームでトイレと浴室を使用可能にできるマンションはないものかと探し、見つけた。しかしマンション入り口にはバリアとなる段差が2段。そこで私は大家さんに「費用は負担するのでスロープを付けさせてほしい」と頼んだ。しかし大家さんは渋い顔。そこで「見た目もよくするので」と嘆願し、どうにか了解を得た。
 私は知人に立派なスロープを作ってもらい、マンション生活がスタートした。ところが驚くべきことが起きた。入居者の多くがスロープを使用しているのだ。ベビーカー、妊婦、杖をついた人、高齢者、三輪車の子ども、疲れている人、そして台車を押した宅配業者。
 私はとても嬉しくなった。車いす用に作ったスロープが喜んで使われている。バリアフリーのために作ったスロープが共用となっている。後からバリア除去のために作ったスロープなので、厳密にはユニバーサルデザインとは言えないが、みんなに喜んで使ってもらえるのならユニバーサルデザインではないか。
 もし、スロープにチェーンと鍵を付けて、私専用にしていたらどうなっていたのだろう。恐らく「邪魔だから撤去せよ」という声がすぐに上がったに違いない。「専用にするなんてバカなことはしない」とだれもが思うだろうが、現実には、障害者専用の設備はそれと同様だ。だからユニバーサルデザインが大切なのだ。
 5年後の転居時、管理会社は「原状回復、スロープ撤去」を指示したが、大家さんからは「みんなが喜んで使っているから置いていってほしい」との申し入れがあった。
 あれから10年、今でもそのスロープが使われているのを見ると嬉しくなる。これは15年前の話。今なら最初から段差を作らないユニバーサルデザインが可能なはず。みんなが喜ぶユニバーサルデザインの設備や建物をどんどん作ってほしい。