「より多くの人に分かりやすく伝えるために」
                                井上 滋樹 氏
          (佐賀ユニバーサルデザイン推進会議アドバイザー、博報堂ユニバーサルデザイン所長)

                                     
 「ユニバーサルデザイン」という言葉に出会い、それがライフワークになって15年が過ぎた。広告会社に入社以来、ずっとデザインに関わってきた。
 ある時、自分が制作した広告を自慢げに祖母に見せた。すると祖母は「活字が小さすぎて読めない」と言った。それは、私にとってひどくショックな出来事で、今も心に焼きついている。情報の「送り手」と「受け手」の間に、大きなギャップが生まれていることを思い知った瞬間だった。
 当時のわが家は、明治から平成生まれまで4世代7人家族。家の階段や家電製品はもとより、家族旅行などを通じて、家族一人ひとりに、どんな商品や建物、情報などの環境が必要なのか、ニーズを聞いた。そうしていくうちに、いつしか私はユニバーサルデザインの専門家になっていた。佐賀県のユニバーサルデザインのアドバイザーになって、「3世代が暮らしやすい佐賀」という言葉を提案したのには、そういう背景があった。
 その後、世界にユニバーサルデザインを普及啓発させた米国ボストンの研究所に特別研究員として招かれ、世界中の最先端のユニバーサルデザインに触れた。海外講演でも家族のエピソードを話し、これが普遍的な考え方であることを再認識した。
 ユニバーサルデザインは、難しいことではない。「みんなにとって利用しやすい街や建物、情報やサービスを、行政や企業などが、市民と一緒になって作り上げていくこと」なのである。
 帰国後の昨年5月、「博報堂ユニバーサルデザイン」を開設した。作り手の独りよがりではなく、より多くの人に、分かりやすく伝えるためのコミュニケーションの開発。デザインも、文字も、色も、音も、空間設計も、あらゆるものを見直して、人に優しいコミュニケーションを少しずつ進めている。
 佐賀のユニバーサルデザインは、世界も注目する大きなチャレンジだ。家族を想うような温かい気持ちで取り組めば、きっと素晴らしい佐賀がつくれる。