まちづくり分科会 「繰り返し訪れたい嬉野、住みたくなる嬉野」

 ○ コーディネーター 
   静岡文化芸術大学デザイン学部 空間造形学科教授 古瀬 敏 氏

 ○ パネラー
   (株)ジィー・バイ・ケイ代表取締役 梶本 久夫 氏
   嬉野市長 谷口 太一郎 氏
   佐賀県建築士会理事 三原 ユキ江 氏
   (株)福山コンサルタント本社事業部課長補佐 山本 英治 氏

議 論 概 要

議論主旨



【コーディネーター】
静岡文化芸術大学デザイン学部
空間造形学科教授 古瀬 敏 氏
 人はどこかに住まなければならない。どこに住まうか選択の自由があるときに、「このまちがいい」と言ってもらう要件は、「あなたには住みにくいよ、住めないよ」と排除されないこと。そうやって排除される高齢者や障害者を若い世代と女性たちの人手で支えてきたこれまでのやり方は、もう限界である。「すべての人のために」を理念としているユニバーサルデザインが、あるべきまちのかたちを議論するものさしになる。
 まちづくり分科会では、地元嬉野を例として、住みやすいまち、そして観光客として何度も訪れたくなるまちであるためには、どうなっていなければならないのか、どうすればいいかを考えます。
                                                      

事例発表・話題提供



【パネラー】
(株)ジィー・バイ・ケイ
代表取締役 梶本 久夫 氏


 愛媛県松山市では「フィールドミュージアム構想」を掲げ、松山城を中心に5つの拠点をつくり、まち全体を一つの博物館として捉え、回遊性のあるまちづくりが行われています。例えば、ハード面では全国に先駆けて市内全域に光ケーブルを敷設するなどユニバーサルデザインの視点でのブロードバンド整備がなされています。また、ソフト面では、行政サービスの向上を図るため、総合窓口によるワンストップサービスにも取り組まれています。
 ブラジルのクリチバでは、環境、土地利用、交通、福祉など優れた都市計画によるまちづくりが行われています。この特徴は、自動車中心から住民を中心とした都市政策の変更であり、主たる交通手段であるバスでは、専用レーン、3両連結、チューブ型のバス停など効率良い仕組みになっています。また、環境の普及・啓発、治水対策などについても独自の取り組みが行われています。




【パネラー】
嬉野市長 谷口 太一郎 氏


 嬉野市では、平成19年3月の「ひとにやさしいまち」宣言により、佐賀嬉野バリアフリーツアーセンターの開設、嬉野温泉旅館におけるユニバーサルデザイン客室の整備、ユニバーサルデザイン対応の公衆浴場「シーボルトの湯」の再建、英語・韓国語を表記した観光サインの設置など、ひとにやさしいまちづくりに取り組んでいます。また、嬉野温泉は、全国の温泉地として初の健康保養地の指定を受けるとともに、旅館組合を中心に乳がんを患った方々に温泉を楽しんでもらう「ほっとマンマin嬉野」を続けています。
 全国大会を契機に、嬉野市では、すべてのひとが市民生活や観光を楽しむことができるまちづくりを進める「公共スペースのユニバーサルデザイン」、計画中の嬉野温泉駅、バスなどのユニバーサルデザイン化を進める「公共交通機関のユニバーサルデザイン」など5本の柱を基本とした新しいまちづくりを目指して努力していきます。 





【パネラー】
佐賀県建築士会理事
三原 ユキ江 氏


 電力、通信施設を地中化する嬉野地区電線共同溝整備事業については、景観整備検討委員会において、歩道空間の確保と街並みの景観公序の観点から話し合いを進めた結果、歩道舗装は透水性脱色アスファルト舗装、防護柵の色はダークブラウン、街路樹はピンク系のハナミズキに決定しました。この事業は、都市災害防止、安全で快適な歩行空間の確保、都市景観の向上、情報通信ネットワークの信頼性の向上などの効果があります。
 私がユニバーサルデザインの施設や道をつくる際、過程を重視し、使いやすいデザインを追求します。また、利用者に特別な意識を与えず、地域住民と協働してユニバーサルデザインを作りあげたいと考えます。
 なお、今朝の8時過ぎには嬉野温泉商店街の一部のお店が開いていましたので、是非昼間の時間帯にはすべてのお店が開き、女性が昼間訪れても楽しく散策できるまちになってほしいと思います。




【パネラー】
(株)福山コンサルタント本社事業部 課長補佐 山本 英治 氏



 国や各自治体では財政が逼迫する中、エンドユーザーの視点に立ち、選択と集中により、本当に必要なものをブラッシュアップしてまちづくりを進めていく必要があります。一方、環境配慮型の施設整備、プロセス段階からボトムアップによるまちづくり、ユビキタス社会の構築、外国人観光客への対応などの課題もあります。
 まちづくりを盛り上げるためには、住みやすさや暮らしやすさに重点を置き、アクションプログラムを作成し都市計画に反映すること、また、観光振興に重点を置き、IT等を活用した外国人にもやさしいユニバーサルデザイン化が必要であると思います。
 今後のまちづくりに必要なものとしては、優先度をつけてのアクションプログラム化、市民のまちづくりへの積極的参加、ユニバーサルデザイン化の効果評価手法の確立、相乗効果を見据えたまち全体のネットワーク化、ICTの利活用などが大きなキーワードになると考えています。
                                                   

質疑応答


 ◎古瀬氏
   防災とバリアフリー化をセットで改修するかどうか逡巡している場合、行政がプラスアルファとして補助金
  を出して援助するとすれば、かなりの効果が得られるのでしょうか。

◎山本氏
   防災とバリアフリー化をセットで改修する場合の補助金制度があるか分かりませんが、景観の分野では
  デザインの質を高める努力に対し補助金をプラスされる制度があります。建物のユニバーサルデザイン改
  修に伴う補助金制度があれば、ユニバーサルデザインの促進につながるのではないでしょうか。

 ◎三原氏
   嬉野市の場合、これからユニバーサルデザインを推進されていかれると思いますので、建物のユニバー
  サルデザイン改修に伴う補助金制度があれば、とても有利になると考えます。

 ◎谷口氏
   一般の建物を改修する場合、高齢者がいらっしゃる家庭に対しては、いくらかの補助金等がありますが
  バリアフリーという視点での取り組みで終わってしまいます。ユニバーサルデザインという視点であれば、
  もう少し幅広い観点で考える必要がありますので、しっかり勉強していきたいと思います。

 ◎梶本氏
   高知県で取り組まれている「たまごの割れない道づくり」をグッドデザイン賞に推薦し表彰されたことがあ
  りますが、賞を得ると新聞、テレビ等で報道されますので、ユニバーサルデザインを理解していただくため
  には、賞を得ることも意外と効果的ではないかと思います。

 ◎古瀬氏
   私が20年近く前に建設省で「長寿社会における居住環境向上技術の開発」のプロジェクトに参加してい
  たとき、建築系と都市系のテーマで議論をしましたが、都市系の出した結論で良く分かったのが、「まち
  に出て歩き回れるようにするためには、数百メートルごとに座って休めるベンチや気軽に簡単で使いや
  すいトイレが必要」ということでした。
   嬉野を歩いて一休みしたいとき、お金を出さずに休める場所や使いやすいトイレの状況はどうなっている
  のでしょうか。

 ◎谷口氏
   佐賀県では、「みんなのトイレ」という制度があり、市内の公共施設、旅館などに協力していただいていま
  すが、まだ十分とは言えませんので、まずは「みんなのトイレ」を増やしていきたいと考えています。

 ◎三原氏
   昨日、嬉野温泉商店街を歩いていると、各店舗に「ユニバーサルデザインのお店です」と書いてあるサイ
  ンボードが掲出されていました。そこには「お茶の休憩ができます」などが書かれていましたが、これはお 
  金をかけずにできるユニバーサルデザインであり、素晴らしい取り組みですので、これからも増やしてほし
  いと思います。

 ◎梶本氏
   長野県松本市では「松本おかみさん会」が中心となってシール形式ですが、嬉野温泉と同様の取り組み
  を実施されており、好評を得ているようです。

<参加者を交えての質疑応答>

 ◎参加者
   ユニバーサルデザインを考える時に、多くの自治体でグランドデザインがありません。グランドデザイン
  がないために商店街が疲弊し、潰れてしまうことになります。各自治体は、グランドデザインや方向性をし
  っかり考え、水準に高いまちを作りあげていくことが重要であると考えます。また、日本は人口減少社会に
  移行しており、2050年には雇用人口の減少や公共交通システムの問題が起きることになります。新しい
  ユニバーサル社会を作っていくためには、まちなかと交通を守っていくことが必要ではないかと考えます。

 ◎谷口氏
   まちづくりを検討するに当たっては、まずはグランドデザインを作ることが理想ですが、予算的に追いつ
  かないのが実情です。嬉野市の市街地も空洞化しつつありますが、新幹線開通に伴う駅ができるなど新 
  しい交通網の中に入る大事な時期に来ていますので、しっかり勉強していきたいと思います。
                       
 ◎参加者
   行政に、車いすの方と一緒に入れるトイレやベビーベットを設置しているトイレの場所を尋ねた際、トイ 
  レの場所を把握されていなかった経験があります。そこで、個人でこのトイレの情報を集め、携帯のサイト
  に掲載していますが、このことを聞いていただける機会が少ないようです。個人で取り組む活動に対して 
  何か発表できる場はありませんか。また、まちづくりに市民が参加する道筋があれば教えていただきたい
  と思います。  

 ◎谷口氏
   予算を使って、個人の情報を広範囲に周知することになると、受け手側の問題もあり難しい面がありま
  す。社会福祉協議会や行政と話をしていただき、情報を共有できればと思います。

 ◎山本氏
   個人よりも社会的立場のある組織でないと行政としては受け入れられない現状がありますので、NPO
  法人という形を取らずに任意の団体で活動することもできるのではないかと思います。

 ◎三原氏
   佐賀県では、「みんなのトイレ」の協力が得られると、佐賀県のユニバーサルデザインのホームページ
  に掲載されることになっています。現在、相当数のトイレが掲載されており、大まかな場所も分かるよう 
  になっています。また、このホームページを見ていただくと、佐賀県のユニバーサルデザインの取り組み
  が一目瞭然で分かります。

 ◎参加者
   嬉野市のユニバーサルデザインのまちづくりのコンセプトの中で地縁組織との関わりについて教えて
  いただきたい。

 ◎谷口氏
   嬉野市では、校区別に地域コミュニティ制度を始めています。今年度から、全体事業費に多少配慮し
  た形で予算を編成していますが、すべての校区でこの組織が出来ているわけでなく、準備段階の地域も
  あります。しかし、数年後には、市内全体の地域コミュニティの組織が出来上がりますので、地域のまと
  まりとして活動していくものと考えています。
                               

まとめ


<最後に各パネラーから一言>

 ◎古瀬氏
   最後に、議論を振り返って、一言ずつお願いします。

 ◎梶本氏
   地球の60%以上の人間が都市に住むような時代が来ると、自己責任で健康を守ることができなくなり
  ます。これからのまちづくりは、市民参加の問題、後進国が抱えている水、貧困、犯罪などの問題につい
  て、みんなで考える時代になり、人の健康、地球の健康、社会の健康といった「健康」がキーワードになる
  と考えています。

 ◎谷口氏
   嬉野市は、ユニバーサルデザインの考えを基本に置きながらまちづくりを進めていますが、まだ十分と
  は言えませんので、一歩一歩学びながら、全国大会を契機として、新しい嬉野のまちづくりを進めてい
  きたいと考えています。

 ◎三原氏
   嬉野のまちには、温泉、お茶、焼き物等があり、市町村合併によって塩田のまちもクローズアップされ
  ていると聞きました。回遊性のある観光を提案していただき、特に女性が来て、嬉野温泉に入り、楽しか
  ったと思えるようなユニバーサルデザインのまちができることを期待しています。

 ◎山本氏
   皆さんの話を聞いて、都市が戦略を持ってグランドデザインを描いて価値をどう高めていくのか、会社
  的にどう経営していくのかという視点が必要になってきていると強く感じました。

 ◎古瀬氏
   佐賀県や嬉野市では、人口減少による危機感は共有されていますので、グランドデザインを描かれて
  いると理解しています。本日の分科会で出された課題と可能性のあるような知恵がいくつか交錯したかと
  思いますので、これを持ち帰り、将来に繋げていただければと考えています。