こころづくり分科会「UD教育の目指すものについて」

 ○ コーディネーター 
   佐賀大学高等教育開発センター 特任准教授 井手 将文 氏

 ○ パネラー
   東京大学先端科学技術研究センター准教授 巖淵 守 氏
   長田区ユニバーサルデザイン研究会副会長 藏野 雅洋 氏
   佐賀大学非常勤研究員 谷岡 稔真 氏

議 論 概 要


議論趣旨



【コーディネーター】
 佐賀大学高等教育開発センター
 特任准教授 井手 将文 氏
 佐賀県では、平成18年に佐賀ユニバーサルデザイン推進会議を発足し、地域環境の改善を議論する「まちづくり分科会」、地域産業の育成を議論する「ものづくり分科会」、情報・サービスの改善や全体的なこころづくりを議論する「ソフトづくり分科会」を設置していますが、この3つの分科会で共通しているのが、「子どもたちへの教育の必要性」についてです。
 こころづくり分科会では、子どもたちにどうやったら多様な人たちがいることを伝えられ、それが自分自身の問題として理解できるか、どんな働きかけをしたら効果的か、ということを考えます。
                                                          

事例発表・話題提供



【パネラー】
 長田区ユニバーサルデザイン研究会
 副会長 藏野 雅洋 氏
 神戸市長田区では、阪神淡路大震災からの復興の過程においてユニバーサルデザインに着目し、人にやさしいまちづくりを進めていくことを目的に、平成13年に多彩なメンバーが集まり「長田区ユニバーサルデザイン研究会」を発足しました。
 当研究会では、平成14年から区民の小中学校を対象としたユニバーサルデザイン授業を展開し、これまでに講師の派遣回数は167回、派遣人数は延べ1,107人の活動実績があります。この授業では、生活に身近なものやまちの中の写真を使っての説明、文房具等を使っての体感、気が付いたことを模造紙にまとめるグループワークの後、グループみんなが前に出て発表を行います。そして、授業のまとめとともに、こころのユニバーサルデザインとして、「人を思いやる大切さ」を伝えています。
 また、当研究会では、食べ物に関する授業、車いすに乗りまち歩きを通した体験型の授業や啓発イベント、アイデアコンテストも行っています。

<質疑応答>
 ◎井手氏
   長田区ユニバーサルデザイン研究会では、個々の特性を活かすユニバーサルデザイン授業が実施さ
  れていますが、グループワークやみんなに分かりやすく伝える発表が重要だと感じました。また、子ども
  たちに障害を持っている方々と意識せずに接することも重要と思いますが、どのようなお考えをお持ちで
  しょうか。

 ◎藏野氏
   私は福祉の勉強をしていませんし、子どもの頃に特別な指導を受けたこともありません。しかし、阪神
  淡路大震災後、いろんな経験を持つ方々とともに長田区ユニバーサルデザイン研究会を発足し、障害
  を持っている方々と接していく中で、障害を持っていることが特別なことでなく、友達と同じように接するこ
  とが必要ではないかと思います。ユニバーサルデザイン授業においても、障害をもっていることを殊更取
  り上げてはいませんし、むしろ、障害を持っている方々と触れ合い、その中で子どもたち自身で気付くこ
  とが多いのではないかと感じています。



【パネラー】
 東京大学先端科学技術研究センター
 准教授 巖淵 守 氏 
 平成19年から始めた「DO-IT Japan」では、障害のある若者の進学・就職を支援し、社会に存在するバリアを彼らとともに解明し、多様性に対して開かれた社会の実現に寄与していきたいと考えています。
 高校生・高卒者向けプログラムでは、学年、障害や病気の程度は問わず、全国から選抜された10人の参加者にコンピューターと支援機器を提供し、大学進学や将来の就職の実現を支援しています。夏季に開催する5日間の大学体験プログラムの中で、親元を離れ、大学や企業での講義を受けるとともに、社会の中で活躍する障害のある方々との交流を図っています。また、その後のオンラインメンタリングを通じて、進路について自分自身で考え、選択するのに必要な合理的配慮、支援技術などに関する知識やスキルを身につけ、次世代を担う人材を育成しています。

<質疑応答>
 ◎井手氏
   DO-ITで学んだ学生は40人を超えており、彼らは近い将来社会に旅立つことになりますが、その中
  から学校に戻って来てもらいたいと考えます。そして、DO-IT、学校、社会におけるそれぞれの体験を
  踏まえ、学校で教育していただくことができればとても素晴らしいことだと思います。DO-ITで学んだ生
  徒の皆さんは、将来教育の現場を希望されているのでしょうか。

 ◎巖淵氏
   佐賀県の生徒は教員になることを希望していますし、特別支援学校の教員になることを希望している
  生徒もいます。DO-ITでは、障害を持っていることをオープンにして話し合っています。そして、みんな
  の違いを感じ、同じ年代で同じ目標を持つ若者たちが困難に直面している状況などを共有しています。
  我々の下には、「どこの大学を受験したらいいでしょうか」との相談がありますが、障害のある学生の中
  には、先輩が在籍している大学や障害のある学生を支援している大学を受験する傾向があり、一方、
  大学側も優秀な障害のある学生が受験してくれないため、どうしていいのか戸惑っている傾向があるよ
  うです。DO-ITでは、障害のある学生の心を動かし、我々と共に先頭になってやってみようという「こころ
  づくり」を大切にしています。



【パネラー】
 佐賀大学非常勤研究員
 谷岡 稔真 氏
  私は全面介助が必要ですが、小中学校は普通校に通学しました。送迎は両親が付き添い、上級生が車いすを押して登下校を行いました。また、同級生の友達は給食を食べさせてくれました。高校入試の前に、先生が各高校に受験できるかどうか問い合わせをされた際、私立高校は「設備がない」ことを理由に受験できず、ある公立高校では「介助が必要なら養護学校はどうか」と言われたことがありましたが、福岡県の県立高校を受験し、入学しました。
 高校卒業後、佐賀大学に入学すると、私が多く利用する棟にエレベーター等が設置されました。また、大学1年生の前期に私がパソコンを操作するための音声認識システムの研究が始まり、修士1年の時に、私が使いやすいようなシステムを完成させました。現在、私以外の障害者がシステムを利用するための研究を続けています。
 最後に、普通高校がもっと障害者を受け入れてほしいし、障害者=養護学校という考え方はやめてほしいと思います。

<質疑応答>
 ◎井手氏
   小中学校のことは分かりましたが、高校や大学で勉強していく中で、学生に何か影響を与えたりしたこ
  とはありませんか。

 ◎谷岡氏
   小中学校と違い、高校や大学は個人個人の勉強になりますので、目に見えるところでは、私はノート
  を書くことができないのでノートのコピーやゼミを受講している時に資料をはぐってもらうことなどがありま
  した。また、先生の中には、講義が始まる前に資料を手渡してくれたことなどがありました。

参加者を交えての質疑応答


 ◎参加者
   谷岡さんは、小中学校、高校、大学とすべて普通校に通われていますが、養護学校という選択肢はな
  かったのでしょうか。

 ◎谷岡氏
   私には兄がいますが、保育園から小学校に進学する際、兄と同じ小学校に進学するのが普通と思って
  いましたし、教育委員会から養護学校を勧められた際も両親が交渉し、普通校に進学することができま
  した。また、中学校に進学する際も養護学校を勧められましたが、小学校の友達と別れたくない理由も
  あり、「みんなと同じ中学校に進学させてください」と頼みました。

                                                          

まとめ


 ◎井手氏
   誰もが尊重され社会参加できる風土を作るためには、いろいろな人と出会い、例えば、グループで話し
  たり、一緒に行動する中で、いろんな視点があり、いろんな考え方があることに気付かなければならない
  と思います。そのためには、子どもたちに様々な体験を持つ方々との出会いや行動する機会を与える
  必要があります。
   パネラーの皆さんが語られたように、障害を持つ方々による授業の機会を増やしていきたい、障害を
  持つ子どもたちの大学進学を支援して増やしていきたい、そして、様々な体験を持つ方々にユニバーサ
  ルデザインを学んでいただき、より厚みのある話をしていただきたいと思います。